中小企業の経営者が生成AIを使い始めたとき、最初に感じる好印象は「否定されない」ことではないでしょうか。

相談すれば肯定的な反応が返ってくる。提案すれば良いところを見つけて褒めてくれる。これは、日々孤独な判断を重ねる経営者にとって、たしかに心強い体験です。

しかし私は、この「優しさ」こそが経営判断において静かなリスクになり得ると考えています。

本稿では、なぜAIが肯定寄りの応答をしやすいのか、それが事業承継や属人化の文脈でどう危険なのか、そしてその弱点を逆手に取る具体的なプロンプト技術について整理します。

なぜAIは肯定してくれるのか

生成AIは、ユーザーの入力してきた文脈や前提を尊重し、その方向に沿った回答を返す傾向があります。

「この事業計画、どう思いますか」と聞けば、計画の良い点を中心に整理された答えが返ってきやすく、「これで大丈夫ですよね」という念押しの聞き方をすれば、同意する回答が返ってきやすい。これは悪意でも欠陥でもなく、対話型AIの基本的な性質だと私は理解しています。

問題は、この性質を知らずに使うと、経営者が聞きたい答えをAIが返し続け、結果として「都合の良い壁打ち相手」になってしまうことです。

壁打ちのつもりが、実際には自分の考えを補強するだけの一人相撲になっている。これでは、判断の質を上げるどころか、根拠のない自信だけが育ってしまいます。

一人で決める経営者ほど、この罠にはまりやすい

中小企業では、重要な意思決定が社長一人の頭の中で完結していることが少なくありません。

財務も、人事も、取引先との関係も、最終的な判断基準は社長の経験と勘に依存している。これがいわゆる属人化です。

こうした環境では、社長の判断に対して率直に反対意見を言える相手が社内にいないことが多く、外部の専門家に毎回相談する時間もない。

だからこそAIが相談相手として使われ始めるわけですが、そのAIが常に肯定してくれるとしたら、経営者は「誰からも反対されない状態」を維持したまま重大な決定を下すことになります。

これは、社内に相談相手がいなかった頃よりも、むしろ危険かもしれません。反対意見がないという状態に、本人が気づきにくくなるからです。

私自身、15歳のときにご縁があって、家業ではなく一人の客として通っていた三浦海岸の乗馬施設を先代オーナーから継いだ経験があります。

あのとき助けになったのは、誰かが常に賛成してくれることではなく、厳しい問いを投げてくれる人が近くにいたことでした。

経営の判断は、賛成してくれる声の数では決まらない。むしろ、反対の声にどれだけ耳を傾けられるかで決まるのだと、今でも思っています。

AIにあえて反対させるという発想

この弱点への対処法は、実はシンプルです。AIに「賛成してください」ではなく、意図的に「反対してください」と頼めばよいのです。

私が実務でよく使っている問いかけを3つ紹介します。

1. 役割を変えて反論させる

「この案に対して、財務責任者の立場で厳しく指摘してください」というように、AIに具体的な役割を与えて反対側から論じさせます。

同じ情報を渡していても、役割を変えるだけで指摘の切り口が大きく変わり、自分では気づかなかったリスクが言語化されることがあります。

2. 失敗の原因を先回りして聞く

「この計画が失敗するとしたら、どこが原因になりますか」と聞くことで、AIは成功前提の説明ではなく、弱点を探す姿勢で応答するようになります。

うまくいく理由ではなく、うまくいかない理由を先に洗い出しておくと、実行段階での修正が早くなります。

3. あえて反対意見を出させる

もっと直接的に「この案に、あえて反対意見を出してください」とだけ伝える方法です。

指示がシンプルな分、AIは前提を疑うところから考え直してくれることが多く、経営者自身が見落としていた論点に気づくきっかけになります。

いずれの問いかけも、AIを「肯定してくれる相談相手」から「厳しい壁打ち相手」に切り替える小さな工夫です。

同じAIでも、聞き方ひとつで役割が変わる。この違いを知っているかどうかで、AIから引き出せる価値は大きく変わってきます。

反対意見は、承継の場面でこそ効いてくる

事業承継を控えた企業では、後継者が先代の判断をそのまま引き継ぐケースと、後継者自身の判断でやり方を変えていくケースが混在します。

どちらの場合でも、判断の根拠が言葉になっていないと、後から検証することも、次の世代に伝えることもできません。

AIにあえて反対させるプロセスを記録に残しておけば、「なぜこの判断をしたのか」「どんなリスクを検討した上で決めたのか」という経緯が、自然と言葉として残っていきます。

これは、判断が社長の頭の中だけに閉じている属人化の状態から、判断の根拠を組織の資産として残す状態への、小さいけれど確実な一歩になると私は考えています。

AIを「もう一人の相談役」にするために

私たちヘリテックが提供しているサクシードAIは、日々の相談相手としてのAIが、経営判断の質を上げる方向に働くよう設計を重ねています。

単に答えを返すだけでなく、経営者が見落としがちな論点に気づける対話を目指しているのは、こうした「優しいAI」の弱点を理解した上での設計だからです。

自社の経営判断にAIを取り入れてみたい、あるいは今使っているAIとの付き合い方を見直したいという方は、ぜひ一度サクシードAIの資料をご覧いただければと思います。